fc2ブログ
ぼやき大爆発
世捨て旅行者の雑記帳
世界ケンカ旅行(東欧中東編11)
ロシア、ポーランド、そして、チェコ、ハンガリーと社会主義体制が崩壊して資本主義に移行する途上の国々を旅行して実感するのは、やはりドルの現地通貨に対する強さであり、相対的物価の低さである。
しかも、ロシアを除いて、インフレはそれほど急激ではなく、社会は落ち着いているように見えた。

ところが、次の目的地であるユーゴスラビアは、物価の安定どころか国家がすでに分裂の危機という非常事態の最中にあり、東欧の中ではこの時点で最も混乱していたと言える。
ただし、ボスニア・ヘルツエゴビナ地方はすでに内戦状態にあったが、セルビア地方は戦火とは表向き無縁であった。

トルコが最終目的地ということで、私と木村青年とはいっしょに移動することになった。 我々が向かったのは、セルビアにあって一応の首都でもあったベオグラードである。 ここは国際列車も乗り入れており、治安という意味では平静を保っていた。 
問題はユーゴスラビアが統一国家として事実上、崩壊していたために、通貨の信用度がゼロに等しくなり、極端なハイパーインフレの真っ最中だったことである。

二人は、ハンガリー・ユーゴ国境近くにあるセゲドという街からローカル列車を乗り継いでユーゴに入国し、ベオグラードまでやってきた。 入国以前でのビザ事前取得が普通だった東欧の中にあって、ユーゴに関しては観光ビザは必要ない。
ここは冷戦最中においても西側からの観光旅行が比較的自由だった国柄である。

昼過ぎ頃に我々はベオグラード中央駅に到着した。

やはり、平和なハンガリーとは違った、人々の暗い表情がベオグラードの第一印象だが、そもそも、ハンガリーとセルビアでは民度が随分と違うと感じた。 というのも、ベオグラード駅の構内にあるキオスクでは、堂々とポルノ雑誌が販売されていて、刺激的な写真が公共の場で晒されていたからである。
もちろん、西欧でもポルノ雑誌は売られているが、特殊なアダルトショップが中心で、公共の場で人々の目に触れるような場所に置かれてはいない。 ポーランドやハンガリー、チェコでの状況はわからないが、少なくとも旅行者の視線に触れるようなキオスクに置かれているようなことはなかった。
ところが、ベオグラード中央駅では、往来する人々の中に混じって、ハードコアの三流エロ雑誌が堂々と売られていたのである。
なんとも、ここの人々のモラルの低さを表していた。 これは単に内戦下の荒んだ心情の具現というのではなく、民族としての文化レベルが低俗なんだということを思い知らされる。

我々は駅を出ると、そこから歩いて20分ほどにある、タスホテルに向かった。
そこはテレサハウスの情報ノートに記されていたホテルで、個室でも割安で泊まれるという。

タスホテルは3階建ての建物で旧市街の端の込み入った一角にあった。
狭い1階のレセプションでは、中年の男がチェックインを受け付けていた。

壁には時々の米ドル・独マルクと現地通貨ディナールとの為替レートが記されていた。黒板にチョークで殴り書きされているようにも見える為替レートは、1日のうち、午前と午後で合わせて2回、最新レートに書き換えられるということである。 

一応、部屋を見せてもらってから、3泊分の宿代である、9ドルを支払った。
シャワートイレは共同だったが、個室ベッド付きで1泊3ドルという破格の安さである。ホテルは米10ドル紙幣で受け取って、つり銭はディナール紙幣で返ってきた。

返ってきた現地紙幣を見て驚いたのは、その圧倒的桁の多さであった。わずか1ドル分が、10億ディナール紙幣数枚分になって返ってきたのである。

レセプションに掲示してある数字との桁数の違いを男性に指摘すると、ゼロの数が多すぎるので、末尾6桁を省略して交換レートを表示するのが慣例らしい。

話を聞いてさらに驚いたのは、交換レートが変動する毎に、だいたい、ディナールが1.5倍増えていくという。 ということは、1日に2回変動するならば、翌日の朝には前日の朝の2.2倍以上になるということである。

つまり、この街では朝に交換したディナールは午前中に使いきり、午後に再び小額ドルを交換して夜までに使い切る、、、そんな工夫をしないと、手持ち外貨の価値を最大限有効に消費することはできない。

「どうする?ここで両替するか?」
私は木村さんに聞いた。 もちろん、外の両替屋で交換することを促す意味である。

「確か、駅の近くに両替屋がありましたね。そこで替えましょう」
彼はすぐさま同意した。ホテルより、専門の両替屋の方がレートがいいのが普通である。

我々はホテルを出て、駅まで歩いたが、繁華街に両替屋を見つけてそこに入った。

専門の両替屋でも、表示は米ドルと独マルクの2種類しか扱っていないようである。
隣国であるハンガリーやルーマニアの通貨は表面上は扱っていないようだ。 頻繁にレートが変わるということを事前に聞いていたので、店頭に張ってあった、紙の切れ端のようなものにボールペンで書かれた交換レート表も不思議に思えない。
やはり、ここでも数字の末尾6桁が省略されていたから、ある種の慣例になっているのだろう。

「とりあえず、俺が10ドル換えてみようか」
私は他の東欧の物価から考えて、レストランで食事をしても1回5ドルで釣銭がくる程度だろうと想像した。
試しに10ドルだけ交換しようというわけである。 私の提案に、木村さんは同意した。

「そうしますか。じゃあ、次は自分が10ドル換えます」

私が10ドル紙幣を差し出すと、係りの女性は、赤い紙幣を数十枚ほど数えて手渡した。 
小額紙幣の札束ではなくて、ある程度まとまった額面の紙幣で受け取れるようなので内心ホッとした。

「じゃあ、メシでもいくかい?」
我々は両替屋を出た。









コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
copyright © 2005 ぼやき大爆発 all rights reserved.
Powered by FC2ブログ.
★付属掲示板へはココをクリック★